スカーフジョイントの問題点 修理編
以前「スカーフジョイントの問題点」として記事を書きましたがその時は実際の画像が無く記載できなかったのですが、かなり顕著にその症状が出た固体が修理に入りましたのでデジカメで撮っておきました |
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より分かりやすいようにフレットを抜いた状態でストレートエッジを当てて撮影しました (弦を張った状態に近づくようにネックにテンションを掛けた状態でストレートエッジを当てています)) 赤矢印はスカーフジョイントの接合面を指しています 右側の赤矢印からは少し離れますがちょうど2フレット辺りからカクンと曲がっているのが確認できると思います 白矢印で指したナット付近では約2oも落ち込んでしまっています 疑り深い方は「トラスロッド締め過ぎで逆反ってるだけじゃないの?」などと思われるかもしれませんが よ〜く見てください、黄矢印が指す部分にうっすらと光が差してるのが見えませんか? そうですこの状態で2フレットから最終フレットまではほ〜んの少し順反っているくらいなのです ナット位置が2oも落ちるくらいですから当然演奏は愚かチューニングさえも出来ない状態です ここまで大きな変形はちょっと珍しいのですがスカーフジョイントのネックにはこのように接合面付近から変形するという問題を少なからず持っているのです 「スカーフジョイントの問題点」で述べたとおりこれを修正するにはトラスロッドやアイロンでは無理で指板を削って修正するしかありません どのように修正するのかを具体的に言いますと、まずこの状態からトラスロッドを緩めて2フレットから最終フレット部分が順反るようにします 次にストレートエッジを当ててナット部分と12フレット付近の隙間が同じくらいになるようにトラスロッドを微調整して、山になっている2フレット付近と最終フレット付近を中心に削ります。こうする事で指板を削る量は最小限で抑えられネック厚の変化を最小に抑えられます。 指板を削ってはストレートエッジを当てと云った作業を繰り返し、最終的にストレートエッジと指板の間のどこにも隙間が無いようになるまで平面出しをします。もちろん指板Rが変わってしまわないように調整しながら削りますし、ネックにねじれがあった場合は一緒に修正します トラスロッドを緩めてから平面出ししますからトラスロッドの締め代が増えることになりトラスロッドがより利く様になると云う“副産物”も得られることになります が、修正前の状態でトラスロッドが緩み切ったような逆反り状態のネックだった場合は、これ以上トラスロッドを緩めることは出来ませんから逆に緩み代を付ける為に少しトラスロッドを締め込んでから指板修正する必要があります 元が逆反っているのに少しだけですが更に逆反りを強めてから指板の平面出しをするのですから指板は相当削られることになります 指板を削ることによってネック自体の厚みが変わりますから削る量によっては明らかにグリップ感が変わってしまうかも知れませんしポジションマークが削れて無くなってしまったり、ラウンド張り指板なんかで指板の厚み自体が薄かったりすると最悪指板が無くなってしまうなんて事にもなりかねません まぁ、そもそもスカーフジョイント+ラウンド張り指板の組み合わせのギターなんて存在しませんが。 ちなみにですが当店ではアイロン(ネックヒーター)は使用しません 経験上、アイロンを使ったネック修正は時間が経つと元の状態に戻ってしまうと感じているからです ただ、それは私の作業の仕方が悪いだけで何らかのコツを得れば有効な修理手段なのかも知れませんので全否定はしませんが… ところで「スカーフジョントの問題点」でテイラーの緻密なフィンガージョイント方式のネックの剥ぎ方を絶賛しましたが、テイラーは数年前からフィンガージョイントは止めてしまいましたね 絶賛した身としてはなんかちょっとカッコ悪いっすね(^^ゞ フィンガージョイント方式からスカーフジョイント方式に変わったのですが良くあるスカーフジョイントとはチト違っていてこんな感じで接がれているのです |
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写真画像では継ぎ目が分かり難いのでまたまたヘタなお絵かき画像で… 赤い線が継ぎ目なのですが、さすがテイラー分かってらっしゃる。指板下で接ぐようなバカな事はしません 剥ぎ目で狂いが出ても演奏上問題が出ないようにヘッド側でのスカーフジョイントとし、しかもその接着面を上図赤線のように波型にする事によって直線の接着面の時と比べて接着面積を増やして接着強度を上げようとしているようです 残念なのはぱっと見ではこんなちょっと凝った事をしているようには見えない事 接ぐ部分こそ異なりますが廉価なギターで良くある「ヘッドでのスカーフジョイント」とあまり区別が付かないでしょう。旧式のフィンガージョイントほどのインパクトはありませんね 恐らくあれだけ細かいフィンガージョイントでは削り出し加工の時に木が欠けてしまったりして歩留まりが出たのでは無いでしょうか? と思うのはフィンガージョイント方式を絶賛した身であるからなのでしょうか… |